こざこざるつぼ

こざこざしたものを、るつぼに入れてくよ

11月9日 思い出

いつだってワームホールは微動だにせず、記録者然として、まるで画面越しの何かをぼんやり眺める朝の誰かみたいな空気を保っていた。ワームヲォールはよく喋るが、他人に対して評価を下すことも、何もしてやらない。ワームフォールは全てにおいて、ただそうあるものだと飲み干して、そのまま素通りして行く。

 

彼らの隣にはトントがいて、彼女はごく自然に総体としての民衆を演じ、善意のみで行動し、無邪気さで笑うことができる。ギ・クルシュガンはいつまでもトントを探し続けている。それをトント以外みんな知っていた。

 

痩せた女が、幸せだと泣いている富豪が、車越しに手を伸ばす兄弟が、あぶくを割って叫び出すカニが、道路反射鏡を磨き続ける男がいる。白い鳩は巨匠によって重大な意味合いを背負わされることもなく、泥に汚れることもなく、CO2の中を飛んで行った。

 

星を撒き散らす扇風機は手動で回され、管理人には7人の息子がいた。誰もがスズメを飼っている。卵を三回割ることで日々を保っているお母さんだって、耳がもぎ取れちゃったり心臓が引っこ抜けちゃうチルドレンだって、彼岸で会ったカップルだって、みんな鳩と会ったことがあるだろう。目を瞑って耳をすます彼女と、耳を塞いで目をこらす彼は、雨の中でルーゼッヒを追いかけた。

 

残骸だけで作られた脳みそと小さな植物が作った歌。クジラとコバンザメが探している何か。地下迷宮の中で半分土に埋まったままのぬいぐるみ。暇つぶしであちらこちらに疑惑を振りまくトールジャイに、影だけが元気なクラブレットは今日も続きがみつからない。半分命を渡した男につきまとっている同族の女、半分命をもらった双子の片割れ、彼らを見守る売れないだけで人がいい隣人。

 

たった5センチだけ水かさの増した水槽。

 

シンバルの少年は親友の小鬼に騙されて、村中が祭りのようにわき立ち、そして静けさが満ちる。森の奥に飛行船の正体が不時着したていでしきたりを探り、テトラポットはラブレターといつか朽ちて消える。ガイとツェカは暖炉の前で問答を繰り返したことを、思い出といして抱え続ける。

ずっと遠い未来の話。