こざこざるつぼ

こざこざしたものを、るつぼに入れてくよ

1月20日 電話

今年の夏、6年間付き合っていた彼氏と別れた。穏やかな別れだった。

 

彼は浪人生で、私は大学一年生。

だんだん電話が面倒になって、ラインが面倒になって、彼のことを考えるのが面倒になって、彼のために時間を使うのが面倒になっていた。

 

小学6年生で転校してきた彼の自己紹介をよく覚えている。

何度も繰り返し思い出したから。彼のことを好きになった瞬間がいつなのか、何度も聞かれた時期があった。こじつけだったのか。そう言った部分があったかもしれない。

心の一面を切り取って相手に伝えるのだけど、全く正しいわけではないその罪悪感がどこか突き刺さって残っていたのだと思う。

一目惚れだと答えた。

自己紹介がたぶんはじめの、一目だった。

 

だけどそれだけじゃなかったかもしれない。その頃周りの子達はみんな恋をしていた。

子供らしいささやかで、少人数で集まってきゃあきゃあ笑い合うような恋ばかりだった。だけど私は随分子供っぽくて仲間になれないのが悔しかったのだ。

昔は人間拡声器にもなれないような子だったから。

誰かと誰かを、全てが終わった後、教室の何処かから聞こえる噂話で初めて知ることは、私の自尊心を大変傷つけていた。

加えて、私も一年ほど前に転校してきたので、まだまだ友達に食らいつくので必死だった。なんとか嫌われない立ち居振る舞い方がわかってきた頃。

思えばこの時にはもう寂しいの塊を抱えていたのかも。

 

一目惚れということにして、片思いをこねくり回して、バレンタインに告白した。お弁当の時間にエビフライをもらいにいくようなことばかりでアピールとも言えないような片思いの方法だったし、告白だってチョコとともに手紙を靴箱に入れるようなものだ。

ただそれがすごく楽しかった。

好きですだけでは照れ臭かったから、友達の家にお泊まりして二人で考え考え手紙を書いていた。そうだ、あの子もその時好きな人がいて、それぞれその人に宛てて書いていた。私は結局便箋二枚に及ぶ手紙に、恥ずかしくて、意味のないまん丸の落書きをしたままだった。彼はまだ持っているだろうか。持っていそうだなあ。

 

だけど返事を聞くのが怖くて、翌日靴箱で呼び止められても走って逃げた。

翌々日にもう一度呼び止められた。足が震えていた。

すごく天気のいい日で、風はそんなになかった。

二月だけど学校は常夏の国にあったので、グラウンドの芝生は青々としていた。

耳元で俺も好きだよ、と聞こえた。

ちょっと記憶が飛んで、友人に泣きそうになりながらすぐ報告していた。

口がにやけてかなわなかった。

 

私は泣きそうなほど単純で、ばかで、それでその時にはもう彼のことが大好きになっていたのだ。

1月17日 発熱

熱が出た。

 

前日からだんだんぼんやりとし始める。

朝起きたら鼻水が止まらなくなり、昼ごろ保険管理センターで風邪薬をもらった。

その時までは平熱だったが、5限を過ぎたあたりでだんだん熱が上がってきた。

目の周りに神経がぎゅっと集中したように熱くなり、涙腺がゆるくなっていく。

 

そうして家に着く頃には、足取りもおぼつかなかった。

 

体温計は買っていない。自分が風邪を引くことを想定した生活をしていない、危機管理能力が欠如したゆるゆるな思考回路のせいで。

熱があっても行きたければいくし、無くても胸がいっぱいなら休む。

そんなもの。

 

事故に遭うとも思わないから、車が少なければ信号無視だってする。

自転車を坂道なりに飛ばしていく。

落単するとは思わないから課題はギリギリ。

 

どれもこれも無闇矢鱈に自信に満ち溢れた根拠のない余裕で満ちている。

私ならできるといつだって思っている。

そうでなければ、面倒くさいからなのだろう。

11月13日 ホラ吹き

大声だと嘘っぽくならない、と気がついたのは高校生になってからだ。

 

恋愛の細かな機微や、友人同士の小さな軋轢なんか、ちゃんと見えたことはない。

原因は、人間関係を雑にすませたがるものぐさな(良く言えばおおらかな)気性に加え、小学生からごく平和に一切波風なく、穏やかに付き合っていた彼氏がいたことでそういったドロドロの安全圏に居続けたせいかもしれない。

いくら小学生といえど、付き合い始めて一年間文通のみでほとんど喋らなかったといえば、周囲が私たちカップルに抱いていた不可侵な空気もお察しいただけるのではないだろうか。

とにかく私はそういった色事に対して、あるいは流れていく人間関係がほとんど分からなかった。例えばそれは、「彼女と彼女は仲がいいと知る。そして少なくとも数年のうちは、それは変わることのない普遍的関係性として保たれる」という思い込みによって、情報不足を気にもとめていなかった怠慢による。

誰と誰が分かれて喧嘩して和解してすれ違って付き合って気になって気に入らなくて、いっそ違う言語かと思った。少女漫画と現実は別なのである。

 

私の自己防衛かつ仲間外れを免れるための手段は、とにかくシンプルであることだ。

厄介な揉め事を全く関知せず、関与しないポジション。

あらゆることが押し流された後で、こういういこともあったのだと気持ちの整理がてらぽろっと打ち明けられる程度の立ち位置。

つまり下手に噂話を楽しむよりは、大体的に言い振る舞う一種の装置である方がよほどストレートに明るく振る舞えた。

ついでに私と話題の人たちとは、変なギクシャクが生まれない。一石二鳥である。

 

結果、卒業時には自称他称「人間拡声器」だった。

物理的に大変声が通りやすく、授業中の私語なんかがもろに聞こえるというのもある。

リアクションが大きいことも、小声が下手くそなのも、身振り手振りで会話してしまうことも、浅く広く付き合いがあることも。

私は生まれつき隠し事に向いていない。

 

それで、私はとうとうそのような振る舞いというものを身につけるに至った。

完全とは言い難いが、それなりに見てくれの良い、話題性のない阿呆の顔である。

裏表がなさそうというだけで人当たりは良くなるし、あまり損はしないだろう。

 

ただ緊張しいなのと、年上が苦手なのも合間って、そこまで人間関係をうまく渡り歩けはしなかった。それでも友人はいるし、相談もできる。ごく一般的な範囲で。

 

この年代に至るまでに誰もが多少身につける処世術のうち、私はこのような方法をとったにすぎない。

失敗も、後悔も、謝罪も、好意も、感謝も、苦手も、不満も、とりあえず悪意なく、ストレートにいってみる。

 

ところで最近はそれも品切れになってきた。単純なだけでは不快になる人もいる。誰も平等だからこそ、越えられない壁がある。私はそれを耐えきれない寂しさゆえに、もう一歩踏み出さんと試みる。

誰か一人、どちらか一方に親身になるということではない。

 

タイミングを見計らって、恋愛の話題に触れることを一歩とした。

 

 

大声だけど、口を紡ぐことができるようになる為に。

できればこのまま嘘をつかない人間でいたい。

もはや処世術から指針になった。いつまでも大口で笑ってはいられないのだ。

 

バイト先で失敗したら隠したくて嘘をついてしまうこともある。

自己保身にかられる余り。 

そうした後の嫌悪感の中でいつバレるかとぐるぐる考えながら、内心私のための言い訳を作る。いいわけだということを自覚しているのでまた辛くなる。

 

結局バレてしまうのだけど、このままバレないで欲しいと願ってきた嘘たち。

自己保身のための嘘たち。

私はもう彼らの姿も思い出せない。

つぐんだまま飲み干して、本当に消えてしまったのか。

誰かも私と一緒に仕方ないなと飲み込んでいてくれたのか。 

11月27日 めも 

なんとかこうにか生きているといった体で、なんともスマートでない。
スーッと窓の外を、鷹かわしか、とにかく美しく羽を伸ばした大柄な茶色い鳥がよぎったのだ。
その非現実さが、ここでは日常だと言う衝撃が、いかに自分が人里に埋没していたかを深々と感じさせた。
しばらくすると急に大きな川が見えた。
清流とはとても言えない。
緑色の諾々とした川だが、その苔むした感じが全くネバつきを感じさせない、さらっとした水だった。

雨の向こうで、私を待つ人がいる。
電波も何もたない彼女は、私のためだけに味噌汁を作っている。
夜のせめぎあいの中で隔絶されたその暖かな家を求めて、私は今日も夜のお散歩を夢想するのだ。だけれども、どうしてだか、シーツから一歩も動けないで、電波だけを頼りに今日も彼女へいけない旨を伝えている。
いつまでも伝わらないままだ。でもそれでいいんだ。
彼女はいつまでもいつまでも、私のことを待ってくれている。
面倒でも、継続するための手段を講じる必要もなく、ただ私が来るのを待つ彼女のことを、私は考え続け、思いはせ続けている。

11月21日 定規

できることとできないことがある。私にはできないことがよく見える。

歩いてもつまずくし、カバンの紐をよく引っ掛ける。

はたと誰かと向かい合って、反復横跳びを繰り返したり、ぶつかったりする。

息をすること、歩くこと。それもうまくはできない。

何と比べてというわけじゃない。

人から興味を持たれる程度か否か。

あるいは悪目立ちするか否か。

みみっちくて、夢中になれない私の持つ数少ない定規だ。

 

ゲームもうまくできない。モンスターハンターは二体目のモンスターであるクルペッコが倒せなくて開かなくなってしまった。アンダーテールはフラウィに乗っ取られたままだ。ゲームデータをセーブし忘れて何度もなくした。

萎縮する、怯える、次の選択肢で何が起こるのか怖い。

怖くて、怖くて、それ以上に面倒臭い。

 

頭を使わないようなご都合主義で背景描写のないネット小説をいつまでも追いかける。

先輩からスコヤという定規を借りたいのだけれど、誰に連絡したらいいかわからない。

もっと言えば、面倒臭い。

 

だけど私が面倒臭いと思うことほど、誰かからもらうと嬉しい。

誕生日におめでとうのラインが来ること、お菓子をもらうこと、送ってもらうこと、おしゃべりして帰ること、ご飯を作ること、お泊まりさせてもらうこと。

手間の面倒くささをよくわかるから。

 

 

雨の日は窓を開けているととても気持ちがいい。雨音を聞いて、そのうち出かけなければいけないが、雨が上がってからでいいだろうとネットを開く。

そのうち雨音が上滑りしていく。

とても静かになる。

雨の日はいきなりバイクの音がすることも、近くのテニス場でボールを打つ音も、帰り際の大学生の笑い声も聞こえない。

不連続的な音は騒音になり得るが、断続的なノイズは慣れによって消滅する。

そうして気づけば日が沈み、外は真っ暗だ。

 

課題は明日までなのに。面倒臭くて、コンビニ行って、印刷して、チョコパン買って、食べて、それでまた、雨が上がってしまったのに、未だ連続して雨が降っているように思う。それは逃げだろう。うまくいかないんではなくて、やってないことを受け入れちゃったダメな自分への甘えだ。

 

11月10日 のど飴

 

家に帰ってすぐにのど飴を探した。

 

 

一昨日からイガイガ違和感がやってきて、昨日は随分ひどかった。

朝から咳をしていたのが目についたに違いない。

バイト先の、おばあさんとおばちゃんの中間くらいの、くたびれた、だけど元気な人がのど飴を3個くれた。貰い物だからと言って。

たぶん私があまりに恐縮しているからだろう。だけど内心では図々しくもラッキーだと思ったし、それはすぐにカバンにのど飴をしまった態度できっと伝わっている。

 

それからみかんと甘さ控えめのカフェオレも飲ませてくれた。

 

飴はいかにも薬らしかった。

ハッカ、よりは、小さい頃イメージしたアルコール消毒液の味そのまま。

私はそれが嫌いじゃない。自分を甘やかそうと決心して口に含むのではないので、甘やかす気の無い味の方が、よっぽど適切だと思う。実際のど飴は良く効いた。

 

ガラガラなりに、元気に1日を過ごす。

そしてコンビニで100円のみたらし団子と、半額の乳酸菌入りチョコレートと、今朝もらったのど飴と同じものを買った。

カフェオレについて考えていたのだ。あの甘くて粘度のある物が喉にいいのだと、その時の私は信じていた。ツバメが低く飛ぶのを見て雨だと言いふらし、実際に翌日雨が降った子供のような気持ちで。

 

その日の夜はコインシャワーの残り2分を使って、体を拭いた後のバスタオルをしっかりお湯に濡らし部屋干しにすることで湿度を上げた。

私はマスクが好きじゃない。

寝る間にマスクをつけるなど決してしたくはなかった。

お布団は好きだ。それは私の全身をあますとこなく包む。皮膚と皮膚がピタリと合わさるよりよほど的確に私を温めてくれる。

だけど例えば靴下を履いたままだとか着込んで寝ることは、私のために私へ何か余計なものを引っ掛けていくということだから、煩わしいと思う。冬の厚着も好きじゃない。

部屋の湿度を上げるのは、お布団に包まれるくらい自然なことだ。重力に沿って息をするままに全身をなぞる。イガイガの気管支まで。

 

 

その甲斐あってか目を覚ますと、咳は随分落ち着いていた。

私は自分の成果に満足し、優雅にレポートを始める。

途中、咳がひどくなりかけて、慌てて温かなコーヒーを作った。

文化祭の打ち上げで余っていたのをもらってきた、ペットボトルのコーヒーに水を少し足してケトルでわかす。ちょうどムーミンのマグカップ一杯分だった。

一口でイガイガした部分が平らになり、なだらかな喉は空気をごく自然に取り込むようになる。

 

私はコーヒーに価値が見出せなくなり、そのまま冷たくなるまで、ベットでレポートの続きを書いた。書き上げて背伸びをした頃にテーブルに上にマグを見つける。

コーヒーが一杯より少し少なく、だけどなみなみとある。

それは残り物ではない。目的が違うからだ。

温かな時は喉を潤すものだったけれど、冷たいコーヒーは朝の嗜好品である。

だから私は満足してそれを煽った。

 

家を出るときに必要としなかったからかもしれない。

私はのど飴を家に忘れてしまった。昨日よりは穏やかにげほげほ繰り返す。

きっとマスクをしない私のことを迷惑に思っているだろう。私もそう思う。

空気感染なんて目に見えないけど、実際うつるのだから。

あののど飴が本当に私の喉に効果があるのと同じくらい、信じられる。げほげほ。

 

この講義の先生は同じ話を繰り返すことで有名だ。

どうしよう、鼻水が垂れてきた。のど飴もテイッシュもない。

私は慌てて聞いているフリのための、カモフラージュに使っていたパソコンをカバンに放り込み、トイレへ駆け込む。

 

ゴミ箱の上に、誰かが着替えて忘れてっただろうジャージのズボン。棚の上にはたぶん誰かのナプキン入れ。狭い個室で、それらは奇異に映る。

鼻をかんで人心地ついた私は、余裕ぶってナプキン入れを開けてみたりする。

実際にはしないけど、もし中にナプキンが余っていたら盗んでやろうかな、くらいの余裕で。だけど空っぽだ。ゴミが一つ。げほげほ。

 

今更教室に戻るのもバカらしい。

鼻を押さえて出て行った私をみんなが気配で感じただろう。それなりに目立っている自覚は、まあ、あるのだ。鼻水はきっかけに過ぎないのだ、と思う。

 

退屈から抜け出すために、神様が鼻水を遣わしたのだろう、たぶんね。

 

私は家に帰ってすぐのど飴を探した。

カバンにはない。ベットにも落ちてない。

棚の上でニット帽に埋もれていたのど飴は、まだ封を切っていなかった。

変わらないアルコール消毒液の味。そこでふと思い出す。手洗いうがいをしていないのではなかったか。普段なら構わない、だけど今は喉が痛い。つまりウイルスを警戒すべきで、今更な気もするが、のど飴をわざわざ口から出して、ほんの30秒手洗いうがいをした。そしてすぐ口に戻す。

こういうところほんと嫌い。

 

トントは言う。「潔いのか、往生際が悪いのか、それ次第だわ」

 

そうだな。私だって手洗いうがいをするために戸惑いもなく飴を口から出したことが潔いのか、今更だしむしろ構内に含んだものを外に出す方が衛生的に良くないのに往生際悪くしてしまったのか、判断がつかない。

 

「でもあなたは、優柔不断だと思ってる。だったらそれは英断だよ。もしあなたが英断だと思ってるなら、だったらそれは汚いことなんだよ」

 

 

飴の唯一悪いところは意外とお腹にたまるところだ。ご飯とご飯の間に溶けた飴がするりと入り、胃の隙間を埋めてしまう。私は満腹になってしまう。

 

 

さっき、ずっと前から一緒にお好み焼きを食べようと誘いあった女の子たちが、今日行こうと言い出した。よくあることだ。

もちろん、と返す。もちろん、楽しみだねって。

だけど私は本当は、のど飴を家で探して、パソコンの充電をしてる間に、ナプキンとシャンプーを買いに行く予定だったのだ。そのつもりだったのに。

 

ジャージを忘れた人も持って帰るつもりだったろうし、お好み焼きに誘ってくれた彼女たちは楽しい時間を過ごせるつもりで、もちろん私だってそれを楽しむつもりだ。

だけどお腹の具合だけが、のど飴で隙間まで埋まってしまってどうしようもない。

 

喉の調子だけが、少しいい。

 

 

 

 

 

 

11月9日 思い出

いつだってワームホールは微動だにせず、記録者然として、まるで画面越しの何かをぼんやり眺める朝の誰かみたいな空気を保っていた。ワームヲォールはよく喋るが、他人に対して評価を下すことも、何もしてやらない。ワームフォールは全てにおいて、ただそうあるものだと飲み干して、そのまま素通りして行く。

 

彼らの隣にはトントがいて、彼女はごく自然に総体としての民衆を演じ、善意のみで行動し、無邪気さで笑うことができる。ギ・クルシュガンはいつまでもトントを探し続けている。それをトント以外みんな知っていた。

 

痩せた女が、幸せだと泣いている富豪が、車越しに手を伸ばす兄弟が、あぶくを割って叫び出すカニが、道路反射鏡を磨き続ける男がいる。白い鳩は巨匠によって重大な意味合いを背負わされることもなく、泥に汚れることもなく、CO2の中を飛んで行った。

 

星を撒き散らす扇風機は手動で回され、管理人には7人の息子がいた。誰もがスズメを飼っている。卵を三回割ることで日々を保っているお母さんだって、耳がもぎ取れちゃったり心臓が引っこ抜けちゃうチルドレンだって、彼岸で会ったカップルだって、みんな鳩と会ったことがあるだろう。目を瞑って耳をすます彼女と、耳を塞いで目をこらす彼は、雨の中でルーゼッヒを追いかけた。

 

残骸だけで作られた脳みそと小さな植物が作った歌。クジラとコバンザメが探している何か。地下迷宮の中で半分土に埋まったままのぬいぐるみ。暇つぶしであちらこちらに疑惑を振りまくトールジャイに、影だけが元気なクラブレットは今日も続きがみつからない。半分命を渡した男につきまとっている同族の女、半分命をもらった双子の片割れ、彼らを見守る売れないだけで人がいい隣人。

 

たった5センチだけ水かさの増した水槽。

 

シンバルの少年は親友の小鬼に騙されて、村中が祭りのようにわき立ち、そして静けさが満ちる。森の奥に飛行船の正体が不時着したていでしきたりを探り、テトラポットはラブレターといつか朽ちて消える。ガイとツェカは暖炉の前で問答を繰り返したことを、思い出といして抱え続ける。

ずっと遠い未来の話。