こざこざるつぼ

こざこざしたものを、るつぼに入れてくよ

銀の匙

中勘助の「銀の匙」は作者が生まれてから眼に映る鮮やかな世界を丁寧に追いかけたもので、自伝に近い。 病弱なことと生来の気質、様々な要因によって作者は普通の子らと同様の幼少期は送らなかったかもしれない。移り変わる季節をみせる植物や、そこに絡みつ…

ラテルラとシンバルの森

「あまりに軽率が過ぎるというものさ!」 大仰に手を振りかざし、ラテルラは笑った。しかして、僕には水鉄砲が握られている。いかようにもできる。ラテルラだってそれをわかっているので、特に僕が反応しないことに対しても何も言わない。ラテルラは小さくて…

紅茶、夢、テスト

お母さんの目の前でテストをぐちゃぐちゃにしちゃったのは、別に反抗期とか思春期とか、誰しもが通る道だとお膳立てされた理由なんかじゃないのだ。だって私はもう小学六年生なのだ。彼氏だっているし、メイクだってできる。お母さんなんかよりずっと上手に…

お人形、部屋、結婚

とても困ったことに、僕がここに居続けたのは君が居たからだったのだ。子供が2人住むにしては狭いワンルーム。正方形の部屋。正方形の壁。正方形の窓。赤いカーペット、水色のカーテン、白いテーブルクロス。椅子は2人分。ベットは大きなものが一つに枕が二…

みかん、寝袋、子ども

祭囃子が曲がり角から漏れ聞こえてきた。踊り子たちがオレンジ色の懐中電灯を振り回しながら、ひらひらと現れる。やがて木枠をいくつも組み合わせて積み上げた、粗雑な神輿が男衆に担がれてぬっそりと出てきた。お蜜柑様のお通りである。日がとっぷりと暮れ…

バスタオル、ポテトサラダ、フォーク

今日のご飯はなんだっけと、さおりが不思議そうに言う。僕が壁に貼ってあるカレンダーを指差せば、彼女はつまらなさそうにそっぽを向いた。僕が大学の教授から譲ってもらった、製薬会社のモノクロカレンダー。4月3日を囲んだ雑な花丸がひどく場違いだ。 さ…

むかしむかし

とても困ったことに、僕がここに居続けたのは君が居たからだったのだ。子供が2人住むにしては狭いワンルーム。正方形の部屋。正方形の壁。正方形の窓。赤いカーペット、水色のカーテン、白いテーブルクロス。椅子は2人分。ベットは大きなものが一つに枕が二…

筋肉

心の中に筋肉飼ってない スポーツやってるやつにネガティブなやついない つまり筋肉 鍛え上げた筋肉は積み上げた努力の結晶だから見せたいんだ つまり筋肉 筋トレしたらネガティブな心は消え去る 筋肉イズパワー うちらは筋肉を得ることで最強になれる パワ…

日記

右の穴が詰まってる、ああ眠い、プリッツがあんだよ、いらないの?、いるよねえ、 私できればカワウソが欲しい 好きなの選んで良いよ やったーこの一戦隠しているのも欲しいこの古代魚っぽいの エイだな エイじゃねーよ足6本生えてるよ エイだな どうせなら…

人の体温は感じられないのに。その温度を私が私で知っているのだから、暖かい気がしてしまうんだろうか。錯覚に近い何かは冬の厚着を挟んでより不鮮明な温度になる。思い描いたものにそう形が手のひらに収まったような、理想道理の安心感を形容する言葉を探…

3月19日 大好き

寂しいの塊はふとした瞬間に忍び込んでくる。彼女の目のうちから、不意に覗くその黒すら、不意に寂しさを引き連れている。1秒にも満たないような漠然とした感覚。自意識過剰の権化になって、私は私を疑い始める。あまり話したくなくなっていく。誰かの愚痴…

3月11日 クッキー

バイト上がりの同居人がおもむろに甘酒を作ると言う。私はコタツで漫画を広げている。彼女は着替えないままに、お風呂も明日の朝にしてコメを炊き出した。 甘酒は12時間放置しなければならないらしく、完成は明日の昼ごろになるらしい。私は甘酒が飲めない…

3月10日ずっと一緒

誰かがずっと一緒にいようとしてくれることにものすごい不快感を覚えていた。 それが恐怖ですらあった。 寂しさが、私の中の唯一にして絶対の領域であるように。 それは可能性だ。一人の人に時間を使い続けることはないという。その分浮いた時間は無限に新し…

2月2日 寂しいのかたまり

引越し当初私は毎日寂しかった。自由にのびのびと寂しいを味わっていた。 家族と離れ離れになることでこんなにも身軽になった心が堰き止めていた寂しいをげろげろと毎日吐き出す。 無理を抱えてそれでも痛がっているような、こらえるような、飲み干して消化…

1月20日 電話

今年の夏、6年間付き合っていた彼氏と別れた。穏やかな別れだった。 彼は浪人生で、私は大学一年生。 だんだん電話が面倒になって、ラインが面倒になって、彼のことを考えるのが面倒になって、彼のために時間を使うのが面倒になっていた。 小学6年生で転校…

1月17日 発熱

熱が出た。 前日からだんだんぼんやりとし始める。 朝起きたら鼻水が止まらなくなり、昼ごろ保険管理センターで風邪薬をもらった。 その時までは平熱だったが、5限を過ぎたあたりでだんだん熱が上がってきた。 目の周りに神経がぎゅっと集中したように熱くな…

11月13日 ホラ吹き

大声だと嘘っぽくならない、と気がついたのは高校生になってからだ。 恋愛の細かな機微や、友人同士の小さな軋轢なんか、ちゃんと見えたことはない。 原因は、人間関係を雑にすませたがるものぐさな(良く言えばおおらかな)気性に加え、小学生からごく平和…

11月27日 めも 

なんとかこうにか生きているといった体で、なんともスマートでない。スーッと窓の外を、鷹かわしか、とにかく美しく羽を伸ばした大柄な茶色い鳥がよぎったのだ。その非現実さが、ここでは日常だと言う衝撃が、いかに自分が人里に埋没していたかを深々と感じ…

11月21日 定規

できることとできないことがある。私にはできないことがよく見える。 歩いてもつまずくし、カバンの紐をよく引っ掛ける。 はたと誰かと向かい合って、反復横跳びを繰り返したり、ぶつかったりする。 息をすること、歩くこと。それもうまくはできない。 何と…

11月10日 のど飴

家に帰ってすぐにのど飴を探した。 一昨日からイガイガ違和感がやってきて、昨日は随分ひどかった。 朝から咳をしていたのが目についたに違いない。 バイト先の、おばあさんとおばちゃんの中間くらいの、くたびれた、だけど元気な人がのど飴を3個くれた。貰…

11月9日 思い出

いつだってワームホールは微動だにせず、記録者然として、まるで画面越しの何かをぼんやり眺める朝の誰かみたいな空気を保っていた。ワームヲォールはよく喋るが、他人に対して評価を下すことも、何もしてやらない。ワームフォールは全てにおいて、ただそう…

11月7日 焼き芋

全部休んでしまった。ベットの上から動かなかった。ひたすらパソコンでどうでもいい、思考を極端にシンプルにしてしまうような小説を漁った。それは幸福には程遠く、しかし必要な作業だ。私がスケジュールの過密さを幸福と感じ、必要とされているように錯覚…

11月6日 体液

耳も見えないほど抱きついて寂しさが紛れるか。だけどトントといくらひっつきあったところで、皮膚と皮膚がピタリと、横並びの頭になろうと、だからこそ視線が合わないことがまた寂しくてどうしようもないのだ。トント、大切な娘。愛すべき一般市民。平等に…

11月3日 前夜祭

廊下が私たちのフィールド。 文化祭、毎年芸術専門学群一年生はカフェを出す。いわゆる女装カフェで、そこにオプションやらグッズやらチェキやらがついている、人間版猫カフェ(えぐい)。友人に装飾班のリーダーになることをやたら薦めまくり、その時に私も…

10月27日 パフォーマンス

先輩たちが随分前から準備していた。いよいよ本番だと、ツイッターでも現実でもどこか浮き足立ったような空気があった。私はそれを横目に、澄ました顔をしながら内心でワクワクしていた。ちょっぴり疎外感も含めて。 7月ごろに、パフォーマンススタッフお手…

10月26・5日 真夜中のスープ

やけに喉が渇いたと思ったら、暖房がつけっぱなしだった。 裸足にはそれでちょうど良かったのだが、私の気管支はすぐに干からびてしまう。表面はこんなに水分を保っているのに。 私が湿度を感じているのは肌だから、その肌がいくら干からびたところで、基準…

10月26日 シーツ交換

先週の誕生日を乗り切って、ついにトントが話をすることに決めたらしかった。 ギ・クルシュガンへの手向けになるかもしれないと、そう言ったのが良かったのかもしれない。彼女は柔らかな手のひらでキンと冷えたコップを包み、じっと座っている。水滴が彼女の…